神話の島、沼島へ渡る |
淡路島の南にぽつんと浮かぶ、勾玉のような形をした小さな島だ。
島の周囲をぐるっと回っても10kmに満たないし、人口はわずか500人余りしかない。淡路島がだいたい周囲200km、人口14万という数字から見ても、沼島の規模がわかると思う。
言ってみれば、アジアの端っこに日本という島国があって、その中に本州という島があって、その本州に付属する淡路島があって、それにさらに付属する、なんというか、マトリョーシカの一番ちっさいやつ的な愛らしさを持った島なのである。
僕は淡路島に合計で8年ちょっと住んだのだけれど、沼島を訪れたのは今回が初めてだった。
僕の家からかなり遠い(文字通り島の端から島の端という距離)のでなかなか行く機会がなかったが、そのうち訪れてみたいなあと密かに思っていた。
個人的な好みの話だけれど、僕は「辺境」というものに強く心惹かれる。
東京化、あるいはグローバル化(平均化)が進んで、どこへ行っても似たような景色や町並みばかりになりつつある現代で、本当の意味での辺境はもうほとんど存在しない。それでも辺境っぽいものに出会うためには、できるだけ地理的に中央から遠いところへ行くしかない。
その点、淡路島は明石海峡大橋の開通後はその辺境性が急激に失われている。三宮まで車やバスで30分ちょっとで出られる東浦以北はもはや神戸都市圏に飲み込まれてしまった。
そんな淡路島の最後の辺境と言うべき所が、沼島だ。
南あわじの険しい山岳を抜けて、その南には太平洋しかないという土生(はぶ)港まで行き、そこからは船でしか行くことはできない。
そしてこの島の辺境性に神秘性を与えているのが、『古事記』『日本書紀』での国生み神話である。
国生み神話って、何やねん?…その話はまた後でふれることにして、さっそく沼島めぐりと行こう。
ここから1日10往復の連絡船が出ている。
島の中心部へ歩いていくと、なんと祭りに遭遇!
あー、それもあって乗船客が多かったのか。しかしこれ、すごいで。
これは恒例の春祭りだそうで、この日はたまたま宵宮だった。ラッキー!
西宮〜神戸あたりとともに、淡路島でも祭りと言えば「だんじり」が主役。生で見るとかなりの迫力だ。
中心の集落ではとんとことんとこ太鼓の音が響いて祭りが続いているが、ここでちょっと離脱して沼島一の名所、上立神岩を目指して歩いてみよう。
途中にある野池も、本土や淡路島では珍しい自然のままの状態。離島は工事に使うものを持ってくるのも大変だから、いらない整備はしない(からかなと思ったけどどうでしょう)。
緑の坂道をだらだらと上って行く。
何しろ小さな島なので、15分も歩けば反対側の海に出る。彼方には太平洋。ひたすらまっすぐ南下すればパラオまで陸地はない(ちょっとスケール大きすぎか)。
そして現れる、上立神岩。
ばーん!
一般にはそれほど知られてはいないことなのかも知れないけれど、『古事記』『日本書紀』では、混沌とした世界にイザナギ、イザナミの二神が最初に創った島が淡路島ということになっている。
二神は淡路島に続いて、四国、隠岐、九州、と順番に島を創り、本州までを創って、大八島(おおやしま)を生み出した。
この「島生み」には前提がある。まず、二神は天沼矛(あめのぬぼこ)を使って、混沌とした大地をかき混ぜるのだが、その時に矛からひと雫が海に滴り落ちる。それは自ら固まって、淤能碁呂島(おのごろじま)となった。二神はこのおのごろじまに降り立っていちゃいちゃしつつ、さっき説明した大八島を生み出すというわけだ。いわば大八島が生まれる前の一番最初のゼロ地点とも言うべきこのおのごろじまとされる最有力地が、何を隠そうこの沼島なのである。
そしてその神話の中でイザナギとイザナミが周囲をまわって婚姻を行った「天の御柱」とされるのが、この上立神岩だ。へえ〜、ですね。
ちょっと長くなってしまったけど、そういう壮大な神話に思いを馳せながら歩いてみると、この小さな辺境の島も、不思議な神秘性を帯びてくる。
上立神岩を後にして、峠を越えて集落に戻る。
かすかに太鼓の音が響いてくる。
そしてたまらん味わいの路地。あ〜
犬の顔の絵の下に…ちょっとこれ、可愛いなあ。
安西水丸的ヘタウマに愛情を感じる。
町では祭りが続いていた。
帰りの船の時間を確認してまだ少しあったので、例の神話にちなむ「おのころ神社」へ行ってみることに。
地元のおばちゃんに訊いてようやく道が分かった。
そろそろ船着き場へ戻った方が良さそうなので、神社を下りて祭りに沸く町を抜けて港へ。
ハッピを着たコーギー犬。きゃわいい〜
港を離れていく甲板から、遠く集落の家並みにだんじりの屋根が見え隠れしていた。
その景色はやがて霞んで見えなくなり、人々の熱狂も太鼓の音も、何か幻だったような気さえしてくる。
船が港に着いて淡路島に戻ってからもしばらく、その不思議な余韻と太鼓のリズムは僕の中に残っていた。
沼島へはまた来よう。
夏、名物のハモを食べに再訪するのもいいかも知れない。
おわり
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