アメリカ横断旅行記(29)約束の地、ホテル カリフォルニア |
ハリウッドでは意外にすることがなかったので(ウォークオブフェイムとか、ハリウッド俳優がずらっと描かれた壁画も見たけど、割愛します)、メトロバスに乗って、かの有名なビバリーヒルズへ。
例えばNYの五番街みたいなところって、銀座や心斎橋みたいにある程度歴史的な蓄積がないとできないけれど、ロデオドライブ的なものなら表面だけすぐマネできるもんな。
そういう意味では、太平洋の向こうのカリフォルニアのショッピング街より、瀬戸内の小さな漁師町とかの方がよほど旅行気分(つまり、ここはヨソなんだ、という実感)を味わえるかも知れない。皮肉な話だけれど。
さすがはビバリーヒルズだと実感する。通りを行き交う高級欧州車や、(お上りさん的観光客に混じって時々いる)ホンモノっぽいセレブリティたち。
さて。
ここからが今日の、というかこの旅のメインディッシュである。
ここまではまあ、言ってしまえば、食前酒と前菜6品盛り合わせと本日のスープに過ぎない(言ってしまったなあ)。
このパームツリーの並木の先に、この旅の終わりに訪れようと思っていた、とある場所がある。
実を言うと、僕は15歳の頃からこの場所へ来ることを夢見ていた。
と言っても、そこに来たから何があるわけでもないし、そこで何かをするわけでもない。
ただ、「その場所を実際にこの目で見てみたい」というイノセントな動機だけだ。
でも旅の動機なんて、そんなもんじゃないだろうか?
僕が目指していたのは、ここ、ハリウッドセレブも利用する超高級ホテル、ビバリーヒルズホテル。
もちろん泊まるわけではない(泊まれるもんか!)。
でもこのホテルと言えば、アメリカンロック好きなら、ピンと来るだろう。
そう、ここはイーグルスの歴史的名盤『ホテル カリフォルニア』のジャケット写真に使われたホテルだ。
ひとつはカーペンターズのベストアルバム、そしてもうひとつがイーグルスの『ホテル カリフォルニア』だった。
はじめはあまり聴かずにラックで埃をかぶっていたのだけれど、あるきっかけから聴くようになって、それからズブズブと僕は古いアメリカンロックの世界へと傾倒していった。
中学から高校にかけて、イーグルスやドゥービーブラザーズ、ニールヤングやCSNにハマり、溯ってバーズやらバッファロースプリングフィールドなんてよりじじむさい方へも枝葉が広がっていった。
なぜかイギリスのロックにはあまりハマれず、もっぱらアメリカンロックばかりだった。
そういう古くさい音楽を三宮の「りずむぼっくす」やなんかであさって買って来て、MDウォークマン(なつかしいなあ)で聴きまくった。
そんなわけで、同世代の友達がその頃聴いていたJ-popの懐かし話をされても、僕には全然ピンと来ないくらいなんだけれど、その中でもすべてのきっかけとなり、またアメリカンロック史上でも希有な1枚となっている『ホテル カリフォルニア』には特別な思い入れがある。
その当時から僕は、こんな風に思っていた。
「いつかアメリカに行くことがあったら、必ずあのビバリーヒルズホテルを訪れよう」と。
アメリカンロックに傾倒したのは父の影響もあるんだけど、実を言うと彼も、1978年にこの場所を訪れて同じような写真を撮っている。
そこに30年経って僕が来ているというのも面白い。
マリワナの香る砂漠を車で行く主人公が、灯りに誘われて立ち寄ったホテルで、夜毎繰り広げられる狂乱の宴。
退廃的な日々からふと我に返りホテルから逃げ出そうとしても、出口がどうしても見つからない…。
中でもよく語られるのは、ロックに対する批判だ。
1969年のウッドストックで愛と平和が歌われて以来、ロックはそこから離れて次第に商業化し、巨大なエンターテインメント産業へと堕落しつつあった。
その状況に対してイーグルスは『ホテル カリフォルニア』で、ロックの魂の死を歌い上げたとも言われている。しかしこの後イーグルスは、すべてを出し切ってしまったかのように、バンドとしても滅びへと転がっていくことになる。
歌の中で、真夜中のホテルで出口を求めて彷徨う主人公に、夜警がこう言う。
「You can check out anytime you like, but you can never leave…(チェックアウトはいつでもできます。ただ、あなたはこのホテルから立ち去ることはできません)」
『ホテル カリフォルニア』はロックへの鎮魂歌であり、また呪いの歌でもあった。
などとロックに思いを馳せながら、鼻息荒くアルバムジャケットと同じ角度を探し向かいの公園に行ってみると…
おおお! だいたいこの角度だ!!
でもさすがに30年以上も経ち、植物の繁り具合も変わってしまっているので、まったく同じ写真は撮れない。撮影クレーンでもあればもっと近いものが撮れただろうけど。
ちなみにこれがオリジナルのジャケット↓
まあでも、だいたいの雰囲気は出てるから満足なのだ。
よし、これで僕のティーンエイジドリームにもやっと区切りがついた。
帰ろう。
暮れていくビバリーヒルズ。
旅ももう終わりだなあ、としんみりした気分になった。
いつかはここに客として戻って来たいなあなんて思った。
何かまた、人生の節目の時にでも。
それまでさよなら、ホテル カリフォルニア。
アツく語ってしまったけど、今日はここまで。
あと2回でこの横断旅行記も終わる予定です。
最後までどうぞおつきあい下さい。
今日の曲は、もちろん。イーグルスで、Hotel California…